弊所は本日出された知財高裁大合議事件(平成24年(ネ)第10015号特許権侵害差止等、損害賠償反訴請求控訴事件)の判決において、一審原告サンジェニック社(英国)を代理しました。以下、概要についてご報告致します。

 サンジェニック社は、おむつ処理機器(タブ)及びそれに適合する使い捨てのゴミ袋(カセット)を、総代理店コンビを通じて日本市場に提供していた ところ、競合であるアップリカ社が、サンジェニック社製タブに適合するカセットを販売し始めました。アップリカ社製のカセットは、サンジェニック社製カ セットに比べて2割強程度廉価でした。
そこで、サンジェニック社は、当該アップリカ社の行為が、サンジェニック社の保有する特許第4402165号を侵害する行為であるとして、平成21年12 月8日、差止請求、損害賠償請求訴訟を提起しました(本件原審)。一審(平成23年12月26日判決)はアップリカ社による特許侵害を認めましたが、損害 額の認定は2113万9152円にとどまりました。この損害額の認定を不服として、サンジェニック社が知財高裁に控訴したのが本件大合議事件です。
 本件においては、特許権者であるサンジェニック社はイギリスで製造した本件カセットを、訴外コンビ(日本総代理店)を通じて日本市場に輸入し、流通に卸 しているので、講学上、サンジェニック社は我が国において、特許法上の実施行為(生産、譲渡、輸入など)をしていないとも考えられます。このような場合で も、特許法102条2項に基づいて損害賠償額の推定を受けられるかというのが本件の争点です。この点、地裁レベルの判決ではありますが、特許権者による特 許品もしくはその競合品の実施が必要であるとした判決が存在しております。
 サンジェニック社は、適用肯定説に基づいて、「本件特許侵害による損害は『原審被告(アップリカ)が侵害行為によって得た利益』(2億超)とすべきであ ると特許法102条2項の適用を主張しておりました。他方、アップリカ社側は、適用否定説に立ち、「特許発明の実施に対して受けるべき金銭の額」 (2000万円程度)とすべきであるとの主張をしておりました(同3項)。
 今般、知財高裁の大合議判決では、サンジェニック社の主張を認めました。以下、主たる争点であった、特許法102条2項を適用するための要件について判示した部分をご紹介します。

 特許法102条2項は、民法の原則の下では、特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには、特許権者において、損害 の発生及び額、これと特許権侵行為との間の因果関係を主張、立証しなければならないというところ、その立証等には困難が伴い、その結果、妥当な損害の填補 がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益額を特許権者の損害額と推定するとして、立 証の困難性の軽減を図った規定である。このように、特許法102条2項は、損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられた規定であって、その効果も推定 にすぎないことからすれば、同項を適用するための要件を、殊更厳格なものとする合理的な理由はないというべきである。
 したがって、特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、特許法102条2項の適用が認められると解すべきであり、特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情は、推定された損害額を覆滅する事情として考慮されるとするのが相当である。 そして、後に述べるとおり、特許法102条2項の適用に当たり、特許権者において、当該特許発明を実施していることを要件とするものではないというべきである。
(下線部は筆者が付した)